D テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/1

テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/1

 

 ――真田瑛子は、魔法(まほう)少女(しょうじょ)である。

 

「真田さん、上手じゃーん」

「そうかな!」

「いま余所見してなかった? すげー」

「あはは、ボクにはワカっていたんだ。――冗談だよ!」

「真田さん、面白いなあ。もっと冷たそうな印象だったけど」

 真田瑛子は埃の舞う校庭にいた。施設棟の四階を横目でイタズラっぽく見据えたまま、クラスメイトと話をしていた。

「ねえ真田さん、どっか運動部入りなよ、って――今入っても、三年まで時間ないか、勿体ないね」

「あはは、時間はいくらでもあるよ! それでも、ボクはおなかが空いてしまうのを、キラうんだ!」

「食細そうだよねー、真田さん」

「あはは、こう見えてお腹は空いてしまうよ! 見えないところでミタしているのだからね!」

「へー、なんか水の中でバタ足する白鳥ね、真田さんは」

「……何あんたのその喩え」

 線の一本抜けたクラスメイトの漫才にも真田瑛子はかまわず、いつものように自分のペースで会話する。

「空を舞うなんてひどく難しいね! ボクはアルくだけで、いつだって精一杯だから! あはは」

「真田さんけんそーん」

「けんそーん」

 

 化け物というものはこの世界において多くもなく、少なくもなく存在し、ひっそりと生きている。その中で特に少女の姿であるものを誰かが魔法少女と呼んだ。

 それらは姿通り人の少女だったのか。もしくは生まれながらにして化け物であったのか、いつの間にやらそうなっていたりするものなのか――きっと本人たちですら知らない。

 ともかく、真田瑛子は魔法少女である。黒い服と緑の長い髪を(なび)かせて、人を騙し、(くら)まし、ただみずからの享楽と続く為の食欲(・・)を満たす為、奔放に生きている。世界の泥の奥底に沈まぬよう足掻いている。

 時にひとり、時にふたりで。

 時にただの気まぐれで。

 

 

 少女だった頃の事は、覚えていない。

 けれど、今は少しばかり、腹が減っている。

 「ああ――何をロウじてしまったのかな? カレン――!」

 ネットの向こう、砂埃に呟いてスパイクを打つ。

 軽い運動は、最高の調味料のはずだ。

                                       

 

 ――魔法(ごち)少女(そう)を食べに、やって来た。