H 中村紫乃

O パーニシャス・パープレックス/4

パーニシャス・パープレックス/4 懐かしい、夢を見ていた。 槌田に勉強なんか教えていた。 それは遠い昔のようで、最近のことだ。 この学校に入ったことを後悔していた頃。家庭の事情で中学三年をまるごと棒に振った為に妥協した自分の判断を呪っていた頃…

L ペイル・ペリセイド/3

ペイル・ペリセイド/3 「あっ、シノちゃんん」 あさぎの安堵した声に、千代子が先客――中村紫乃を一瞥する。あさぎはその一瞥に不安のサインを感じ取った。実際の所、千代子は自分の記憶をたぐって、紫乃が隣の席によく訪れる二人組の片割れであることを思…

K パーニシャス・パープレックス/3

パーニシャス・パープレックス/3 階段の踊り場、中村紫乃の目下には昨夜の黒セーラーがいた。「昨夜は」黒セーラーだったそいつは、紫乃たちと同じ制服を着て不敵にシャボン玉遊びをしていたのだ。 「同じ学校だった――なんてこと、あるはずないよね……」 「…

I パーニシャス・パープレックス/2

パーニシャス・パープレックス/2 中村紫乃は、一晩を耐えきった。 まんじりともしない夜を過ごした。恐怖もあった。けれど、空腹が何より大きかった。冷蔵庫の前でたっぷり三十分葛藤し、負けた。肉が食いたかった、どうしても肉が食べたくてしょうがなか…

H ブラックスミス・スクラブル/1

ブラックスミス・スクラブル/1 悪夢の二日目だった。 「うぜー」 小さい声で漏らしたはずの独り言が教室にはっきりと響いてしまう。特に親しくもしていないクラスメイトがさっと一瞥し、また視線を規定の位置に戻していく。牽制の儀式は終わりだとばかりに…

E パーニシャス・パープレックス/1

パーニシャス・パープレックス/1 中村紫乃は、最近やたらと腹が減るのだった。 腹が減るということはエネルギーを使っている証拠で、良い代謝が自分の身体で起こっているのにまず間違いないはずだ。しかし、どうも力が余りすぎてている。うたたねした二限…

B チョコレート・ゲート/1

チョコレート・ゲート/1 ブラウスのボタンは一番上まで止めて、襟には毎朝アイロンをかけている。スカートのプリーツに皺が寄ることもない。桐の刺繍が施された胸の名札には「片岡(かたおか)千代子(ちよこ)」と記されている。印刷されているようにも見える…