F 槌田紅実

Z ブラックスミス・スクラブル/6

ブラックスミス・スクラブル/6 痛みで槌田は目覚めた。髪を解いた全裸の少女の後ろ姿が見えた気がした。槌田はその背格好が、どことなくあさぎに似ている様な気がした。けれどあさぎはツーテールだったはずだ。あさぎはあんなに大きくないし、つるつるとも…

Y ペイル・ペリセイド/6

ペイル・ペリセイド/6 壺井あさぎは一人でも、やっぱりずっとお腹が空いていた。 あんなにいっぱい食べたのに。家の中が血まみれになってしまうくらい食べたのに。生のおにくがたべたくてたべたくて、しょうがなかった。ケータイがないから、どうしようも…

X チョコレート・ゲート/8

チョコレート・ゲート/8 片岡千代子は壺のアタックを逃れていた。壺に絡んだ蔦を見てすぐ、鉄骨ばかりの倉庫上階に陣取ることを決めた。 冷凍倉庫といっても高さがそれほどあるわけではない。千代子はその中二階とも言うべき場所から冷気が供給されている…

W ブラックスミス・スクラブル/5

ブラックスミス・スクラブル/5 槌田紅実はもうどうにかなりそうだった。コンクリート剥き出しの床に座って小便を漏らして救われるならそうしていただろう。けれど、歯を食いしばっても、自分を虚勢で大きく見せても、絶体絶命の窮地で為す術もなく流されて…

V チョコレート・ゲート/7

チョコレート・ゲート/7 壺が鳴っていた。 片岡千代子は頭を抱えた。どうやらジョーカーを引いた。 「――なんてこと」 槌田紅実がナナメ後ろで言葉を失っている。藍色の文様に新鮮な赤茶のシミを隠さない巨大な白磁の壺が、非常誘導灯ばかりのうすぐらい倉…

T ブラックスミス・スクラブル/4

ブラックスミス・スクラブル/4 槌田紅実は倉庫の建ち並ぶ場所にいた。 指定された場所は倉庫だった。名前を聞いたことがないけれどどうやら食肉業者の冷凍倉庫らしかった。 「……やっぱハメられたんじゃねえかなあ」 槌田は頭を掻く。セキュリティ会社のシ…

S ブラックスミス・スクラブル/3

ブラックスミス・スクラブル/3 あの日から、槌田紅実の周りは静かになった。 事実だけを述べるならば、白中、学内の血の海の中で全裸の女子高生が倒れていた――。これだけでワイドショーは総動員だ。それに加えて、その血は誰のものかわからない。時を同じ…

N ブラックスミス・スクラブル/2

ブラックスミス・スクラブル/2 槌田紅実は教室でひとりきり。昼下がりの五歳男児のような二日目の下腹部と格闘している。さっきは珍しく授業をサボった中村紫乃が来て、機嫌の悪いところに悪ふざけしたからキレたら、なにやら不思議な手品を披露したあと、…

I パーニシャス・パープレックス/2

パーニシャス・パープレックス/2 中村紫乃は、一晩を耐えきった。 まんじりともしない夜を過ごした。恐怖もあった。けれど、空腹が何より大きかった。冷蔵庫の前でたっぷり三十分葛藤し、負けた。肉が食いたかった、どうしても肉が食べたくてしょうがなか…

H ブラックスミス・スクラブル/1

ブラックスミス・スクラブル/1 悪夢の二日目だった。 「うぜー」 小さい声で漏らしたはずの独り言が教室にはっきりと響いてしまう。特に親しくもしていないクラスメイトがさっと一瞥し、また視線を規定の位置に戻していく。牽制の儀式は終わりだとばかりに…

B チョコレート・ゲート/1

チョコレート・ゲート/1 ブラウスのボタンは一番上まで止めて、襟には毎朝アイロンをかけている。スカートのプリーツに皺が寄ることもない。桐の刺繍が施された胸の名札には「片岡(かたおか)千代子(ちよこ)」と記されている。印刷されているようにも見える…