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E 片岡千代子

b チョコレ―ト・コレクト

チョコレ―ト・コレクト 「あははは、ははは」 真田瑛子が草原の中で揺れていた。傍らであられもない姿をさらして寝ている片岡千代子の耳に、自らの唇を近づけてついばんだりを、さっきから飽きもせず繰り返していた。 「チヨコ! まだ寝てるのかな? もしか…

X チョコレート・ゲート/8

チョコレート・ゲート/8 片岡千代子は壺のアタックを逃れていた。壺に絡んだ蔦を見てすぐ、鉄骨ばかりの倉庫上階に陣取ることを決めた。 冷凍倉庫といっても高さがそれほどあるわけではない。千代子はその中二階とも言うべき場所から冷気が供給されている…

V チョコレート・ゲート/7

チョコレート・ゲート/7 壺が鳴っていた。 片岡千代子は頭を抱えた。どうやらジョーカーを引いた。 「――なんてこと」 槌田紅実がナナメ後ろで言葉を失っている。藍色の文様に新鮮な赤茶のシミを隠さない巨大な白磁の壺が、非常誘導灯ばかりのうすぐらい倉…

U チョコレート・ゲート/6

チョコレート・ゲート/6 片岡千代子はどうしても、先輩に会いたかった。二度も名前を聞けずじまいだったから当然だ。先輩に会って名前を聞いて、唇を奪った責任を取らせなくてはならないのだ。この恋路を何が何でも果たさなければ気が済まない。理由に足り…

T ブラックスミス・スクラブル/4

ブラックスミス・スクラブル/4 槌田紅実は倉庫の建ち並ぶ場所にいた。 指定された場所は倉庫だった。名前を聞いたことがないけれどどうやら食肉業者の冷凍倉庫らしかった。 「……やっぱハメられたんじゃねえかなあ」 槌田は頭を掻く。セキュリティ会社のシ…

M チョコレート・ゲート/5

チョコレート・ゲート/5 片岡千代子が目を覚ますと、そこに壺があった。 大きくて白く、触れずともつるつるした手触りを約束してくれるような形をしていた。それは藍色の顔料で幾何学的な唐草にも似た文様が描かれていた。奇を衒ったわけでもないシンプル…

L ペイル・ペリセイド/3

ペイル・ペリセイド/3 「あっ、シノちゃんん」 あさぎの安堵した声に、千代子が先客――中村紫乃を一瞥する。あさぎはその一瞥に不安のサインを感じ取った。実際の所、千代子は自分の記憶をたぐって、紫乃が隣の席によく訪れる二人組の片割れであることを思…

J ペイル・ペリセイド/2

ペイル・ペリセイド/2 壺井あさぎと片岡千代子は学園前駅ホームのベンチで横に並んで、半人分のスペースを空けてもう小一時間座っていた。その間ずっと対話は無かった。対話になってなかっただけで、あさぎはずっと「ね、ねえ大丈夫ううう?」だの「そ、そ…

G チョコレート・ゲート/4

チョコレート・ゲート/4 夢のように明るい通学路だった。電車でまどろむうちに、夢のようにおぼろげな記憶になってしまっていた。けど、先輩の白い指と不思議な言葉、甘い声、眠そうな目、緑青の髪、チョコレートの香り。そのすべてに愛された。片岡千代子…

F ペイル・ペリセイド/1

ペイル・ペリセイド/1 壺井あさぎはちっこい。ちっこい以前にとてもやかましい。そしてやたらと動く。授業中でも何かにつけ動いていたがる。ネズミとかリスみたいな小さい動物はでかい動物であるところのゾウとかクジラにくらべてせせこましく動き回る。動…

D チョコレート・ゲート/3

チョコレート・ゲート/3 夕焼けに照らされても、先輩の髪は緑色を湛えていた。 二人は手を繋いだまま電車に乗る。夕焼けが背中を押す。電車はさほど混んでいない、サラリーマンの帰宅ラッシュの前、学生の帰宅ラッシュを半ば過ぎた時間。端の三人席を見つ…

C チョコレート・ゲート/2

チョコレート・ゲート/2 コトは済んだ。千代子は口を丹念にすすぎ、深呼吸をした。発作は収まったと思う。面倒な体質だけれど、覚悟があれば組体操だってやってのけよう。だが、不意にスイッチを押された場合は、どうしても不覚を取ってしまう事が多かった…

B チョコレート・ゲート/1

チョコレート・ゲート/1 ブラウスのボタンは一番上まで止めて、襟には毎朝アイロンをかけている。スカートのプリーツに皺が寄ることもない。桐の刺繍が施された胸の名札には「片岡(かたおか)千代子(ちよこ)」と記されている。印刷されているようにも見える…