B 真田瑛子

N テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/3

テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/3 今から――あのトイレの中で。 年下の子に弱みを握られたあたしが――。 甘い声をあげて、それを全部映像に残されて――。 今度は、街中を、コート一枚で――。 寒くて――、粗相してしまう八頭佳恋――。 そして、お仕置…

M テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/2

テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/2 「せんぱい、我慢しなきゃダメですよ。最弱にしてありますから、わたし、いつものところで待ってますから。五分後に来て下さい、そしたらきっと十分後には着くと思うんです。わたしが中でどんな風に待っている…

F ステンドグラス・ストラテジー/4

ステンドグラス・ストラテジー/4 「ね、フェンリルって、何?」 「――IT関連企業?」 「なにそれ。ネット? あー……それかなあ」 「なにが、元ネタの話?」 「ねえ、それってなんか悪い(・・)?」 「ワル――? ……べつに悪かァー無いんじゃない? 何が良いか…

D テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/1

テンタティブ・テンタキュラ・ユグドラシル/1 ――真田瑛子は、魔法(まほう)少女(しょうじょ)である。 「真田さん、上手じゃーん」 「そうかな!」 「いま余所見してなかった? すげー」 「あはは、ボクにはワカっていたんだ。――冗談だよ!」 「真田さん、面…

C ステンドグラス・ストラテジー/2

ステンドグラス・ストラテジー/2 一月も半ばだった。 八頭佳恋は憔悴(しょうすい)していた。一つ前の授業はわかりにくいと評判の化学だった。コロイド溶液は我々でチンダル現象は人間社会の隠喩ということらしかった。なによりも罪なきクラスメイト達を憔…

B ステンドグラス・ストラテジー/1

ステンドグラス・ストラテジー/1 二年生もはやいもので三学期になった。正月も終わった。今年はお父ちゃんのところに帰らなかった。タイミングってやつが合わなかったんだ。だから年賀状が来た。「楽しくやっているか、たまには遠慮せずに帰ってきなさい」…

b チョコレ―ト・コレクト

チョコレ―ト・コレクト 「あははは、ははは」 真田瑛子が草原の中で揺れていた。傍らであられもない姿をさらして寝ている片岡千代子の耳に、自らの唇を近づけてついばんだりを、さっきから飽きもせず繰り返していた。 「チヨコ! まだ寝てるのかな? もしか…

Z ブラックスミス・スクラブル/6

ブラックスミス・スクラブル/6 痛みで槌田は目覚めた。髪を解いた全裸の少女の後ろ姿が見えた気がした。槌田はその背格好が、どことなくあさぎに似ている様な気がした。けれどあさぎはツーテールだったはずだ。あさぎはあんなに大きくないし、つるつるとも…

Y ペイル・ペリセイド/6

ペイル・ペリセイド/6 壺井あさぎは一人でも、やっぱりずっとお腹が空いていた。 あんなにいっぱい食べたのに。家の中が血まみれになってしまうくらい食べたのに。生のおにくがたべたくてたべたくて、しょうがなかった。ケータイがないから、どうしようも…

X チョコレート・ゲート/8

チョコレート・ゲート/8 片岡千代子は壺のアタックを逃れていた。壺に絡んだ蔦を見てすぐ、鉄骨ばかりの倉庫上階に陣取ることを決めた。 冷凍倉庫といっても高さがそれほどあるわけではない。千代子はその中二階とも言うべき場所から冷気が供給されている…

W ブラックスミス・スクラブル/5

ブラックスミス・スクラブル/5 槌田紅実はもうどうにかなりそうだった。コンクリート剥き出しの床に座って小便を漏らして救われるならそうしていただろう。けれど、歯を食いしばっても、自分を虚勢で大きく見せても、絶体絶命の窮地で為す術もなく流されて…

R グラスランド・オーバー/2

けっぷ。と内側に溜まった息をひとつ。惨劇の廊下からほど遠くない時間と場所。真田瑛子は鉄塔の上で、新しい魔法が体になじむのを待っていた。 瑛子にとって「食事」はとても疲れる行為なのだ。だから、一度に弱った相手をひとり。それが他の魔法少女たち…

O パーニシャス・パープレックス/4

パーニシャス・パープレックス/4 懐かしい、夢を見ていた。 槌田に勉強なんか教えていた。 それは遠い昔のようで、最近のことだ。 この学校に入ったことを後悔していた頃。家庭の事情で中学三年をまるごと棒に振った為に妥協した自分の判断を呪っていた頃…

M チョコレート・ゲート/5

チョコレート・ゲート/5 片岡千代子が目を覚ますと、そこに壺があった。 大きくて白く、触れずともつるつるした手触りを約束してくれるような形をしていた。それは藍色の顔料で幾何学的な唐草にも似た文様が描かれていた。奇を衒ったわけでもないシンプル…

K パーニシャス・パープレックス/3

パーニシャス・パープレックス/3 階段の踊り場、中村紫乃の目下には昨夜の黒セーラーがいた。「昨夜は」黒セーラーだったそいつは、紫乃たちと同じ制服を着て不敵にシャボン玉遊びをしていたのだ。 「同じ学校だった――なんてこと、あるはずないよね……」 「…

I パーニシャス・パープレックス/2

パーニシャス・パープレックス/2 中村紫乃は、一晩を耐えきった。 まんじりともしない夜を過ごした。恐怖もあった。けれど、空腹が何より大きかった。冷蔵庫の前でたっぷり三十分葛藤し、負けた。肉が食いたかった、どうしても肉が食べたくてしょうがなか…

E パーニシャス・パープレックス/1

パーニシャス・パープレックス/1 中村紫乃は、最近やたらと腹が減るのだった。 腹が減るということはエネルギーを使っている証拠で、良い代謝が自分の身体で起こっているのにまず間違いないはずだ。しかし、どうも力が余りすぎてている。うたたねした二限…

D チョコレート・ゲート/3

チョコレート・ゲート/3 夕焼けに照らされても、先輩の髪は緑色を湛えていた。 二人は手を繋いだまま電車に乗る。夕焼けが背中を押す。電車はさほど混んでいない、サラリーマンの帰宅ラッシュの前、学生の帰宅ラッシュを半ば過ぎた時間。端の三人席を見つ…

C チョコレート・ゲート/2

チョコレート・ゲート/2 コトは済んだ。千代子は口を丹念にすすぎ、深呼吸をした。発作は収まったと思う。面倒な体質だけれど、覚悟があれば組体操だってやってのけよう。だが、不意にスイッチを押された場合は、どうしても不覚を取ってしまう事が多かった…

A グラスランド・オーバー/1

鴉が鳴いていた。 「――おや」 プラスチック容器が、雫をこぼしながら奈落へと落ちていく。 黒いセーラー服の少女が、赤く染まった鉄塔の上に取り残された。 「あはは、残念だなあ!」 殺伐としたその場所におよそ似つかわしくない明るい声が、地上からほど…